福田フクスケのリズミカルな地団駄

フリーライター福田フクスケによる、筋トレのような自慰行為のような写経のような、呪いにも祈りにも似たサービス精神の欠片もない日記。

【20150525】ふざけよう

犬山紙子さんの文庫『地雷手帖』の解説を松尾スズキさんが書いていて、犬山さんへの愛あるいじりと叱咤とエールの織り交ぜられた文章に、関係ないのに傍からおこぼれをもらうように勝手に感動してしまった。
いや、それは「感動」というよりも「背筋を伸ばす」に近い感情で、とりわけ「お笑いコラムの火を消すな」という一文にグッときたのだった。

というのも、俺は笑いのある文章を書くとき、それはもう松尾さんの文体にもろに影響を受けていて、憧れであり目標でありお手本としていたからだ。
にもかかわらず、ここ数年は、人様の取材やインタビューをうまいことまとめたり、人様の本を読んでそれを丹念にレビューしたりと、およそ笑いのない原稿を書くことが多かったし、Twitterでも、ひたすら辛気くさいまじめなジェンダー論をぶったりすることがもっぱらになっていた。

そのほうが評価されるし、反響もあるから……というのも半分は本音だけど、もう半分は、笑いから逃げていたんだと思う。
俺にとっては、まじめなことをまじめなまま書くのは安易で楽なことであり、そこに「おもしろ」を乗せて笑いを取ることのほうが、実力を問われるハードルとプレッシャーの高い作業なのだ。
俺は、笑いから、逃げていた。

で、よくないことに、「おもしろ」は筋肉と同じで、鍛えていないとみるみる衰えるものであって。
ついこの前、『GINZA』からいただいた仕事が、久々に純粋に「ふざける」ことを求められる原稿だったのだけど、案の定苦戦を強いられた俺は、実に2回も「おもしろくない」と書き直しを命じられ、ボディブローのようなダメージを心に食らっていたのである(ボディブローのような、というのはずいぶんとまた紋切型な言い回しであって、同世代だけどみるみる俺より売れていった武田砂鉄氏がいかにも取り上げそうな言葉だけれど)。

まさにそんなタイミングで読んだのが、「お笑いコラムの火を消すな」という松尾さんの一言だったわけだ。
もっとも尊敬する書き手である松尾さんのその一言が、俺のコラムを最初におもしろいと言って広めてくれた犬山さんの本の解説に出てきた、というのも、勝手に浅からぬ因果を感じる要因だろう。
うん、やっぱり俺は、ふざけよう。ふざける原稿もちゃんと書こう。
と、決意をあらたにして、ほろ酔いだった深夜の勢いで、今書いたのと同じようなことをTwitterにも書いた。

書いたんですよ。

そしたらその直後、俺が「AM」にコラムを書きはじめた頃からファンでいてくれる方からDMがきて、すごい長文の叱咤のメッセージをいただいたのである。
いわく、「まさに私も同じことを思っていました。ここ最近のフクスケさんは、堅い文体で難しい言葉で真面目なことを長々と書いてばかりで、本来のファンや読者が離れてしまっている気がします。同時期に注目されていた方が先に売れていったのもそのせいなのでは? もっと以前のように間口の広いおもしろいツイートが読みたいです(要約)」という辛辣なものだった。

そんなことはない、俺は今の路線でいいんだ、と思っていれば、このメッセージはただのクソバイスにすぎないはずだったのだけど、まったく同じことを俺自身も思っていて、そのことにうしろめたさを抱えていたものだから、この方の指摘は、平家の矢を全身に受けて立ち往生する弁慶のように、真っ正面からグサグサと私の心を突き刺した。

うん、俺は別にジェンダー論の専門家になりたいわけでもなければ、フェミニズムの論客になりたいわけでもなく、ただ、世の中の規範や常識といわれるものを、ひねた視点やうがった見方でおもしろおかしく書きたいだけの、サブカルぶりっこおじさんだ。
ジェンダー論やフェミニズムというのは、これから人前で何かを表現しようという人なら必ず向き合わなきゃいけない問題であるし、俺自身すごく興味があるから、それを理解するためにも、今はいったん全面的にコミットしてみる時期、なんだと思う、俺の中で。

でも、最終的にはそれは、「正しいからコミットする」のではなく、今ある規範を疑い、転覆させるために、この世界をおもしろがるレイヤーやツールのひとつとして「使いこなすためにコミットしている」のでなければいけない、と思っている。少なくとも、啓蒙や社会運動は、俺のやりたいことじゃない。それだけは、見失わないようにしたいなあと思ったのだった。

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普段から、外出先で大地震があったら…という不安にさいなまれ、いつもパソコンや充電器などはぜんぶ持って出かけるようにしているのに、今日に限って、すぐそこまで飯を買いに行くだけだからと、手ぶら&ラフな格好&サンダル履きで外に出たら、そういうタイミングを狙いすまして大きめの地震がきやがった。
本当に、自分の運やツキというものが一切信じられない。俺が行ったら噴火しそうなので、怖くて箱根には行けないし、俺が子供を欲しいと思わないのも、俺のところをわざわざ選んで●●●が生まれてくるに違いないからだ。
われながら被害妄想が病的だと思う。

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マイナビに書いたまんしゅうきつこさん『アル中ワンダーランド』のレビューが掲載。

news.mynavi.jp

あと、午後は週刊誌の仕事でアルテイシアさんに電話取材。

夜は、近所にある定食屋「ふじや」に初来訪。タクシー運転手御用達の店として評判らしいが、早稲田に5年以上住んでて行ったことなかった。豚ロース味噌焼き定食を頼んだのだけど、たしかにこれはうまいなー。